日本酒製造の『寒菊銘醸』を母体としたクラフトビール醸造所、『KANKIKU BREWERY』。
九十九里オーシャンビール(KUJUKURI OCEAN)のほか、日本にて酒蔵と併設のブルワリーにしか造れない、米に特化したビールやスムージーを展開しています。
日本酒の醸造の技術を生かした深い味わいのビールから、ライトでフルーティなビールまで、ビールの美味しさを追求し製造し続けている醸造所。
インタビュー形式にてお届けします。
地ビールを超えた本当の美味しさを追求していく。
地ビールブームから始まり、現在に至るまでの20年を超えるブルワリーの歴史とは。
千葉県で地ビールと日本酒の両輪を経営するKANKIKU BREWERY佐瀬代表へのインタビューとなります。
KANKIKU BREWERYでは「九十九里オーシャンビール(KUJUKURI OCEAN)」のクラフトビールブランドを展開しています。
▲工場入口の外観(ここに受付と不定期稼働のショップがあります)
地ビールブームをきっかけにしたブルワリーへの挑戦
ー 日本酒の蔵元がビールを作ろうとしたきっかけや、九十九里オーシャンビールの成り立ちを教えてください。
地ビールブームの時代に乗っかった形でビール作りをスタートしました(笑)
1994年~2003年の規制緩和に伴って小さなプラントの醸造所でもビールを作ることが可能になりました。
日本でも比較的気軽にビールを製造できるようになったため、地ビールブームが起こりました。
そこで、私たちも地ビールブームに乗っかった形で、免許を取得して事業をスタートしました。
しかし地ビールブームの終焉と共に単独母体のプラント(小規模事業事業)はどんどん廃業に追い込まれていきましたが、KANKIKU BREWERYは地元の千葉で事業を継続し、2022年には自社ビール『RAICE ALE』で「ワールドビアアワード2022」のライスビール部門最高賞受賞することができました。
本当のビールの美味しさを追求しつつ、2024年9月には京成千葉駅の近くに直営店『TAP ROOM 99』をオープンしました。
日本酒と地ビール、2つの事業を進める理由
元々は日本酒が私たち(寒菊銘醸)の本業で母体です。
流通拡大が進んで量販店などへの販売が中心になる中で、吟醸酒ブームが到来。
日本酒製造元としては喜ばしいところのはずですが、伝統的な酒屋との取引が少なかったため、ブームに乗りきれませんでした。
そこで、地元や小規模店舗と新たな関係性を築くには、日本酒だけでなく「地ビール」に力を入れる必要がありました。
まだ、日本はBREWERY自体が少なかった時で、そこに力を入れたのがきっかけです。
小さな醸造設備からのスタートと成長への試行錯誤
工場はもっと小さかったんです。仕込みのタンクも8機くらいしかありませんでした。
当時60㎘作るのが精いっぱいなプラントだったんですが、それをフルで活かすことができず遊ばせてしまっている部分も多い状態でした。年間生産量は26㎘とかそのくらいしかなかったですね。
それではいけないということで、海外ブルワリーの情報収集や現地の醸造技術研修などを行ったり、タンクの増設なども行い、ソフト面とハード面の両方を地道に拡充してきました。
今でこそ16機くらいあるんですよ。そういったのを繰り返して今の形が出来上がっています。
ビールの多様化とKANKIKU BREWERYの方向性
日本の文化ってなんか「とりあえずビール」って言葉があるって思っていて。
居酒屋さんに行くとビールで何を選んでいるかというと、ビールを選択しないでサイズを選択しているんですね。小さいビールなのか大ジョッキなのか。
本当はビールって様々なビアスタイルがあるんです。
なのでビールを選択するような文化になればいいなと思っています。
2010年から2015年頃にはIPA(インディア・ペール・エール)が流行し、ホップをふんだんに使用した香り高いビールが人気を博しましたが、私たちはあえて「美味しいピルスナーを作りたい」という目標を掲げました。
とにかく美味しいピルスナーを作りたいっていうのをずーっと繰り返してきました。
九十九里オーシャンビールが美味しさを保って進化する原点がここにあります。
ビールづくりでのこだわり
ー ビールづくりで心がけていることってありますか?
充填前の商品に関しては極力テイスティングは全部チェックするようにしています。品質チェックですね。
同じ原料を使っても、発酵状態によって思ったような状態と違う場合があります。
KANKIKU BREWERYではスタッフと経営陣との信頼度が高くスタッフの主体性が尊重されてはいるのですが、発酵状態の良し悪しの判断を現場サイドの責任として負わせたくないという思いがあります。
スタッフにしてみると、自分たちが一生懸命作ったもので、それを「捨てる捨てない」となると、会社に対して損害が生まれる可能性があるという認識になります。
「ダメなものでも、何とかならないか」という気持ちになる。
それを思い切ってその場で「ダメなものはダメ」という判断を言えるのは僕だけだと思っています。経営実権を握っている。現在、極力年間の9割以上をビールのテイスティングを朝からしています。
また、現在瓶で販売しているKANKIKU BREWERYの瓶ビールは熱殺菌をかけています。
熱をかけると味が変わってしまうので、チェックを全部行っています。
そこだけは譲れない。
「美味しくないものは、できるだけ世に出したくない」
KANKIKU BREWERYではより多くのお客様に安定したビールを提供できることを目的として、熱殺菌処理したものだけがボトルショップや直売店で販売されます。
ー 熱殺菌処理されていない「生」はどこかで飲めたりするんですか?
直営店のTAP ROOM 99でのみ「生」を飲むことができます。
こちら(九十九里)で皆さんにお買い上げいただいているボトルとは別になります。
特別感もありますので、違った美味しさを楽しんでいただけたらと思います。
商品ラベルとデザインの刷新
ー 数年前はビールのラベルデザインが現在と違いましたよね?変えた理由は何かあったのですか?
はい、大きな理由は2つあります。
一つは、地ビールから本当に美味しいビールに脱却したかった。要は顔を変えないと、昔のイメージを払拭できない。
そこで、思い切って変えました。
ラベルデザインも自社で行っているKANKIKU BREWERY。
さらに美味しいビールのために、洗練された見た目のデザインになりました。
以前のラベルには、海に近いことからイルカマークがデザインされていました。
日本ではほぼ問題のないデザインですが、海外で販売する際に捕鯨問題などのイメージがあることから変更。
環境や文化に配慮したデザインでもあります。
原点回帰とアンテナ的店舗『TAP ROOM 99』展開へ
ー 直営店の「TAP ROOM 99」が出来た経緯は何かあったんですか?
どっかにアンテナを持たないと何も生まれないなと思いまして。
千葉県は千葉駅周辺の都会的な部分と、太平洋を望む外房九十九里海岸が広がる地域があります。
海への観光客が多いというイメージがありますが、それは海水浴シーズンの話。
海って何か月やってるか知ってますか?(笑)
365日のうち90日しか開いてないんですよね。じゃあ残りの275日間は何をやっていればいいのかと思って。
(それは外房方面多くの事業者が感じるところです)
そのようなことを考えている頃、世界はコロナ禍へ。
原点回帰しました。
昔ながらの酒店との取引や多くの飲食店への訪問で新たな出会いや知見を得るのと同時に『誰のためのモノづくりなのか』という気づきがありました。
そんな中で友人から「店舗をやってみないか」との誘いを受けることになりました。
ちょっと悩んで、とりあえず紹介を受けるだけだったら受けてみようかなと思って。
立地も悪くないし、学生時代が津田沼だったので知らない街じゃないし、悪くないかなって。
やらない理由がなくなっていくというか。
じゃあ、内装どうしようか?
友達で内装業をやっている人がいて、さらにだんだんやらない理由がなくなっていって(笑)
『じゃ、やるか!』
ちょっと自分の計画より3年早かったです。
▼直営店の「TAP ROOM 99」の詳細は下記ページに掲載しております。
地元産品へのこだわりと地域貢献
ー 「TAP ROOM 99」の料理の材料は地元産品にこだわられてますよね?
やっぱり呑むのも食べるのも、どこにでも売っているものじゃなくて、そこじゃなきゃいけないものとか。そういうことかな。
美味しい地元の食材をビールと共に提供したいという思いが強くありました。
地域の食材を使うことで地域貢献にもつながります。
はまぐりとか、実は僕が自分で仕入れにいっていたりします。
あと、4.5㎏のカツオを自分たちでおろそうとしたりもしました。
ただ、提供が難しく、悔しい食材もあります。
このへん(醸造所のある千葉県山武市)はいい魚介類がとれるので、本当はいわしとかも出したかったりするんですが、足が速くて出せないんですよね。
ここで食べるのと同じものを店舗で出したいという思いはあります。
九十九里周辺は魚介の中でもハマグリなどの他、イワシも有名です。イワシは鮮度の良いうちは刺身で抜群に美味しいのですが、あしが早く本当に美味しく頂けるのは九十九里ならではと言われています。 |
KANKIKU BREWERY工場拝見
KANKIKU BREWERYさんの工場を、佐瀬代表に案内していただきました。
整理整頓されているのはもちろん、出荷や在庫確認などで間違いがないよう工夫がなされていました。
ラベルを貼る機械や、仕込みのタンク、充てん機械などを拝見。
工場が見える隣の部屋にはLABもあり、分析関係を行っているということでした。
そこから、すこし涼しい部屋に行くと、ズラリと並んだタンクが!
「昔はタンクむき出しだったんですよ。それで今エアコンを入れて、完全に外気遮断して空調管理して、一年間の発酵の管理を安定化させています。
外気が35℃とか超えてしまうと厳しいですよね。一昨年建屋を新しく建てたのですが、日差しが直接当たらないので、20度以下を保つことができます。自分たちでタンクを出し入れできるように設計もしてあります」
現在の仕事の動線の確保だけでなく、先々まで見据えた構造を目にすることができました。
樹齢200年を超える柿の大木の水
KANKIKU BREWERYでは、樹齢200年を超える柿の大木の根元より湧き出る水を使用しています。
ミネラル分が多い中硬水は、醸造に適した水です。
KANKIKU BREWERYのホームページに記載がある「柿の大木」の取材と写真撮影を特別許可して頂きました。
大きく手を広げたように立派な枝に、柿の実が一杯に実っていました。
静かに湧き出る水に、日本酒やビールの製造が支えられているのを考えると、柿の大木に神秘性すら感じます。
そのまま水を使用するのではなく、調整などを行うそうですが、九十九里の自然と共に歴史ある酒造りをしておられるのだなと肌で感じるような柿の木です。
KANKIKU BREWERY の直売店
千葉県山武市にあるBREWERYには直売所がありますが、不定期での営業のため、直接販売の道の駅での購入がお勧めです。
▲上記写真は道の駅 みのりの郷東金
★九十九里オーシャンビールが手に入る直売店
【道の駅 みのりの郷東金】
千葉県東金市田間1300‐3
0475-53-3615
https://minorinosato-togane.com
【道の駅 オライはすぬま】
千葉県山武市蓮沼ハ4826番地
TEL:0475-80-502
【海の駅 九十九里】
千葉県山武郡九十九里町小関2347−98 2F
【房の駅 各店舗】
https://fusanoeki.fusa.co.jp/shop-list/
KANKIKU BREWERY のラインナップ
2024年11月現在のラインナップです。
【PILSNER】
インタビューで佐瀬代表が「美味しいピルスナーを作りたい」と語られたビール。
「ノーブルホップ」といわれるクリーンな苦味とさわやかな香りが特徴のホップをメインに使用しています。色は心華やぐ黄金色です。
【PALE ALE】
アメリカンスタイルペールエール。色は濃厚な褐色。
適度な苦味とフレッシュなホップの香りで飲みやすく、ビール好きにはパーフェクトな印象を与える一品です。
【STOUT】
黒ビール。複数のモルトを使用した、チョコレートやコーヒーのようなロースト香が特徴です。
新しいビール感を感じる飲みやすさです。
【99LAGER】
日本酒造りに使用される米と醸造技術を活用した『寒菊銘醸』ならではのラガービール。
口当たりが柔らかい優しい味わいです。
【WEIZEN】
バナナ香がするフルーティーな白ビール。ビールがちょっと苦手でも試せる一品。
【IPA】
ホップをふんだんに使用したアルコール6%のビール。
フルーティーな香りと苦みが特徴で飲みごたえがあります。
【RICE ALE】
『Word Beer Awards 2022RiceBeer部門』にて受賞。
千葉県コシヒカリを原料にしたビール。ドライな飲み心地です。
これからのKANKIKU BREWERYとKEYAKI BEER FESTIVAL
毎年恒例のさいたまアリーナで行われる『KEYAKI BEER FESTIVAL』にはビールとフードで参加されています。
2024年9月開催にはラインナップのビールの他、酒粕を使ったスムージなども販売されました。
フードには九十九里の「ハマグリの酒蒸し」を販売されています。
来年にはぜひ、さいたまアリーナでも飲みたい九十九里オーシャンビールです。
☆2024けやきひろば秋のビール祭り KANKIKU BREWERY出店紹介ページ
https://www.beerkeyaki.jp/shop/shop.php?shop_cd=224
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